までお供《とも》して来て、それで北さんにご迷惑がかかったのでは、私だって困るわ。」
「それもそうだ。うっかりひとの世話なんか、するもんじゃないね。僕という難物の存在がいけないんだ。全くこんどは北さんもお気の毒だったよ。わざわざこんな遠方へやって来て、僕たちからも、また、兄さんたちからも、そんなに有難《ありがた》がられないと来ちゃ、さんざんだ。僕たちだけでも、ここはなんとかして、北さんのお顔の立つように一工夫しなければならぬところなんだろうけれど、あいにく、そんな力はねえや。下手《へた》に出しゃばったら、滅茶々々だ。まあ、しばらくこうして、まごまごしているんだね。お前は病室へ行って、母の足でもさすっていなさい。おふくろの病気、ただ、それだけを考えていればいいんだ。」
妻は、でも、すぐには立ち去ろうとしなかった。暗闇の中に、うなだれて立っている。こんな暗いところに二人いるのを、ひとに見られたら、はなはだ具合いがわるいと思ったので私はソファから身を起して、廊下へ出た。寒気がきびしい。ここは本州の北端だ。廊下のガラス戸越しに、空を眺めても、星一つ無かった。ただ、ものものしく暗い。私は無性《む
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