なかなか、べっぴんになったでしょう。」
「べっぴんになりました。」私は真面目に答えた。「色が白くなった。」
みんな笑った。私の気持も、少しほぐれて来た。その時、ふと、隣室の母を見ると、母は口を力無くあけて肩で二つ三つ荒い息をして、そうして、痩せた片手を蠅《はえ》でも追い払うように、ひょいと空に泳がせた。変だな? と思った。私は立って、母のベッドの傍へ行った。他のひとたちも心配そうな顔をして、そっと母の枕頭に集って来た。
「時々くるしくなるようです。」看護婦は小声でそう説明して、掛蒲団《かけぶとん》の下に手をいれて母のからだを懸命にさすった。私は枕もとにしゃがんで、どこが苦しいの? と尋ねた。母は、幽《かす》かにかぶりを振った。
「がんばって。園子の大きくなるところを見てくれなくちゃ駄目ですよ。」私はてれくさいのを怺《こら》えてそう言った。
突然、親戚のおばあさんが私の手をとって母の手と握り合わさせた。私は片手ばかりでなく、両方の手で母の冷い手を包んであたためてやった。親戚のおばあさんは、母の掛蒲団に顔を押しつけて泣いた。叔母も、タカさん(次兄の嫂の名)も泣き出した。私は口を曲げて、
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