ですか? 僕たちは見ませんでしたよ。」
「おや。私たちは、また、その速達を見て、おいでになったものとばかり、――」
「そいつあ、まずかったな。行きちがいになったのですね。そいつあ、まずい。妙に北さんが出しゃばったみたいな形になっちゃった。」なんだか、すっかりわかったような気がした。運が悪いと思った。
「まずい事は無いでしょう。一日でも早く、駈けつけたほうがいいんですもの。」
けれども、私は、しょげてしまった。わざわざ私たちを、商売を投げて連れて来て下さった北さんにも気の毒であった。ちゃんと、いい時期に知らせてあげるのに、なあ、という兄たちのくやしさもわかるし、どうにも具合いの悪い事だと思った。
先刻、駅へ迎えに来ていた若い娘さんが、部屋へはいって来て、笑いながら私にお辞儀をした。また失敗だったのだ。こんどは用心しすぎて失敗したのである。全然、女中さんではなかった。一ばん上の姉の子だった。この子の七つ八つの頃までは私も見知っていたが、その頃は色の黒い小粒の子だった。いま見ると、背もすらりとして気品もあるし、まるで違う人のようであった。
「光《みっ》ちゃんですよ。」叔母も笑いながら、「
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