ども私には、これが非常に面白かった。決して「傑作」ではない。傑作だの何だのそんな事、まるで忘れて走り廻っている。日本の映画は、進歩したと私はそれを見て思った。こんな映画だったら、半日をつぶしても見に行きたいと思った。昔の傑作をお手本にして作った映画ではないのである。表現したい現実をムキになって追いかけているのである。そのムキなところが、新鮮なのである。書生劇みたいな粗雑なところもある。学芸会みたいな稚拙なところもある。けれども、なんだか、ムキである。あの映画には、いままでの日本の映画に無かった清潔な新しさがあった。いやらしい「芸術的」な装飾をつい失念したから、かえって成功しちゃったのだ。重ねて言う。映画は、「芸術」であってはならぬ。私はまじめに言っているのである。
底本:「太宰治全集10」ちくま文庫、筑摩書房
1989(平成元)年6月27日第1刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版太宰治全集」筑摩書房
1975(昭和50)年6月〜1976(昭和51)年6月
初出:「映画評論」
1944(昭和19)年4月1日発行
入力:土屋隆
校正:noriko saito
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