魚服記
太宰治
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)義経《よしつね》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)三四百|米《メートル》
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一
本州の北端の山脈は、ぼんじゅ山脈というのである。せいぜい三四百|米《メートル》ほどの丘陵が起伏しているのであるから、ふつうの地図には載っていない。むかし、このへん一帯はひろびろした海であったそうで、義経《よしつね》が家来たちを連れて北へ北へと亡命して行って、はるか蝦夷《えぞ》の土地へ渡ろうとここを船でとおったということである。そのとき、彼等の船が此の山脈へ衝突した。突きあたった跡がいまでも残っている。山脈のまんなかごろのこんもりした小山の中腹にそれがある。約一|畝歩《せぶ》ぐらいの赤土の崖《がけ》がそれなのであった。
小山は馬禿山《まはげやま》と呼ばれている。ふもとの村から崖を眺めるとはしっている馬の姿に似ているからと言うのであるが、事実は老いぼれた人の横顔に似ていた。
馬禿山はその山の陰の景色がいいから、いっそう此の地方で名高いのである。麓《ふもと》の村は戸数もわずか二三十でほんの寒
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