がない)私たち、十万の青年、実社会に出て、果して生きとおせるか否か、厳粛の実験が、貴下の一身に於いて、黙々と行われて居ります。以上、書いたことで、私は、まだ少年の域を脱せず、『高所の空気、強い空気』である、あなたに、手紙を書いたり、逢ったりすることに依《よ》りて、『凍える危険』を感ずる者である。まことに敬畏《けいい》する態度で、私は、この手紙一本きりで、あなたから逃げ出す。めくら蜘蛛《ぐも》、願わくば、小雀《こすずめ》に対して、寛大であられんことを。勿論お作は、誰よりも熱心に愛読します心算《つもり》、もう一言。――君に黄昏《たそがれ》が来はじめたのだ……君は稲妻《いなずま》を弄《もてあそ》んだ。あまり深く太陽を見つめすぎた。それではたまらない……(一行あき。)めくら草紙の作者に、この言葉あてはまるや否や、――ストリンドベルグの『ダマスクスへ』よりの言葉である。と、ああ、気取った書き方をして了《しま》った。もう、これ以上、書かないけれども、太宰治様。僕は、あなたの処へ飛んで行って暗いところで話し度《た》い。改造にあなたが書けば改造を買い、中公にあなたが書けば中公を買う。そして、わざと三円
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