ん。……シェストフ的不安とは何であるか、僕は知りません。ジッドは『狭き門』を読んだ切りで、純情な青年の恋物語であり、シンセリティの尊さを感じたくらいで、……とにかく、浅学|菲才《ひさい》の僕であります。これで失礼申します。私は、とんでもない無礼をいたしました。私の身のほどを、只今、はっと知りました。候文《そうろうぶん》なら、いくらでもなんでも。他人からの借衣なら、たとい五つ紋の紋附《もんつ》きでも、すまして着て居られる。あれですね。それでは、唄わせて、(ふびんなことを言うなよ。)いや、書かせていただきます。拝啓。小生儀、異性の一友人にすすめられ、『めくら草紙』を読み、それから『ダス・ゲマイネ』を読み、たちどころに、太宰治ファン[#「ファン」に傍点]に相成《あいなり》候《そうろう》ものにして、これは、ファン・レターと御承知|被下度《くだされたく》候。『新ロマン派』も十月号より購読致し、『もの想う葦』を読ませて戴き居候。知性の極というものは、……の馬場の言葉に、小生……いや、何も言うことは無之《これなき》候。映画ファンならば、この辺でプロマイドサインを願う可きと存候《ぞんじそうら》え共、そ
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