詰原稿十枚。一、題材は、春の幽霊について、コント。寸志、一枚八円にて何卒。不馴れの者ゆえ、失礼の段多かるべしと存じられ候《そうろう》が、只管《ひたすら》御|寛恕《かんじょ》御承引のほどお願い申上げます。師走九日。『大阪サロン』編輯部、高橋安二郎。なお、挿絵《さしえ》のサンプルとして、三画伯の花鳥図同封、御撰定のうえ、大体の図柄御指示下されば、幸甚に存上候。」
月日。
「前略。ゆるし玉《たま》え。新聞きり抜き、お送りいたします。なぜ、こんなものを、切り抜いて置いたのか、私自身にも判明せず。今夜、フランス製、百にちかい青蛙《あおがえる》あそんでいる模様の、紅とみどりの絹笠かぶせた電気スタンドを、十二円すこしで買いました。書斎の机上に飾り、ひさしぶりの読書したくなって、机のまえに正坐し、まず机の引き出しを整理し、さいころが出て来たので、二、三度、いや、正確に三度、机のうえでころがしてみて、それから、片方に白いふさふさの羽毛を附したる竹製の耳掻《みみか》きを見つけて、耳穴を掃除し、二十種にあまるジャズ・ソングの歌詞をしるせる豆手帳のペエジをめくり、小声で歌い、歌いおわって、引き出しの隅《す
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