だとは思わない。然し、あなたは近代インテリゲンチャ、不安の相貌《そうぼう》を具《そな》えている。余りでたらめは書きますまい。あなたは黄表紙の作者でもあれば、ユリイカの著者でもある。『殴《なぐ》られる彼奴《あいつ》』とはあなたにとって薄笑いにすぎない。あなたがあやつる人生切り紙細工は大|南北《なんぼく》のものの大芝居の如く血をしたたらせている。あまり、煩《うる》さい無駄口はききますまい。ヴァレリイが俗っぽくみえるのはあなたの『逆行』『ダス・ゲマイネ』読後感でした。然《しか》し、ここには近代青年の『失われたる青春に関する一片の抒情、吾々の実在環境の亡霊に関する、自己証明』があります。然し、ぼくは薄暗く、荒れ果てた広い草原です。ここかしこ日は照ってはいましょう。緑色に生々と、が、なかには菁々《せいせい》たる雑草が、乱雑に生えています。どっから刈りこんでいいか、ぼくは無茶苦茶に足の向いた所から分け入り、歩けた所だけ歩いて、報告する――てやがんだい。ぼくは薄野呂《うすのろ》です。そんなんじゃあない。然し、ぼくは野蛮でたくましくありたいのです。現在ぼくの熱愛している世界はどの作家にもありません。ド
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