らであり、情死を行ったからであり、卑《いや》しい女を妻に迎えたからである。私は、仲間を裏切りそのうえ生きて居れるほどの恥知らずではなかった。私は、私を思って呉れていた有夫の女と情死を行った。女を拒むことができなかったからである。そののち、私は、現在の妻を迎えた。結婚前の約束を守ったまでのことである。私、十九歳より二十三歳まで、四年間土曜日ごとに逢っていたが、私はいちども、まじわりをしなかった。けれども、肉親たちは、私を知らない。よそに嫁《とつ》いで居る姉が、私の一度ならず二度三度の醜態のために、その嫁いで居る家のものたちに顔むけができずに夜々、泣いて私をうらんでいるということや、私の生みの老母が、私あるがために、亡父の跡を嗣《つ》いで居る私の長兄に対して、ことごとく面目を失い、針のむしろに坐った思いで居るということや、また、私の長兄は、私あるがために、くにの名誉職を辞したとか、辞そうとしたとか、とにかく、二十数人の肉親すべて、私があたりまえの男に立ちかえって呉れるよう神かけて祈って居るというふうの噂話を、仄聞《そくぶん》することがあるのである。けれども、私は、弁解しない。いまこそ血のつ
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