げたら、桐《きり》の枝に引かかったっけ。俺は、君よりも優越している人間だし、君は君もいうように『ひかれ者の小唄』で生きているのだし、僕はもっと正しい欲求で生きている。君の文学とかいうものが、どんなに巧妙なものだか知らないが、タカが知れているではないか。君の文学は、猿面冠者のお道化に過ぎんではないか。僕は、いつも思っていることだ。君は、せいぜい一人の貴族に過ぎない。けれども、僕は王者を自ら意識しているのだ。僕は自分より位の低いものから、訳のわからない手紙を貰ったくらいにしか感じなかった。僕は自分の感情を偽《いつわ》って書いてはいない。よく読んで見給え。僕の位は天位なのだ。君のは人爵《じんしゃく》に過ぎぬ。許す、なんて芝居の台詞《せりふ》がかった言葉は、君みたいの人は、僕に向って使えないのだよ。君は、君の身のほどについて、話にならんほどの誤算をしている。ただ、君は年齢も若いのだし、まだ解らぬことが沢山あるのだし、僕にもそういう時代があったのだから黙っていただけの話だ。君のこのたびの手紙の文章については、いろいろ解釈してみたが、『こんどだけ』という君の誇張された思い上りは許し難い。きっぱりと
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