玩具
太宰治
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)紙凧《かみだこ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]《ろう》たけた
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どうにかなる。どうにかなろうと一日一日を迎えてそのまま送っていって暮しているのであるが、それでも、なんとしても、どうにもならなくなってしまう場合がある。そんな場合になってしまうと、私は糸の切れた紙凧《かみだこ》のようにふわふわ生家へ吹きもどされる。普段着のまま帽子もかぶらず東京から二百里はなれた生家の玄関へ懐手《ふところで》して静かにはいるのである。両親の居間の襖《ふすま》をするするあけて、敷居のうえに佇立《ちょりつ》すると、虫眼鏡で新聞の政治面を低く音読している父も、そのかたわらで裁縫《さいほう》をしている母も、顔つきを変えて立ちあがる。ときに依っては、母はひいという絹布を引き裂くような叫びをあげる。しばらく私のすがたを見つめているうちに、私には面皰《にきび》もあり、
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