うと、二重橋ちかきお広場であろうと、ごめん蒙《こうむ》って素裸になり、石鹸《せっけん》ぬたくって夕立ちにこの身を洗わせたくてたまらぬ思いにこがれつつ、会社への忠義のため、炎天の下の一匹の蟻《あり》、わが足は蠅取飴《はえとりあめ》の地獄に落ちたが如くに、――いや、またしても除名の危機、おゆるし下さい、つまり、友人、中村地平が、そのような、きょうの日、ふと三年まえのことを思って、ああ、あのころはよかったな、といても立っても居られぬほどの貴き苦悶を、万々むりのおねがいなれども、できるだけ軽く諸君の念頭に置いてもらって、そうして、その地獄の日々より三年まえ、顔あわすより早く罵詈雑言《ばりぞうごん》、はじめは、しかつめらしくプウシキンの怪談趣味について、ドオデエの通俗性について、さらに一転、斎藤実と岡田啓介に就いて人物|月旦《げったん》、再転しては、バナナは美味なりや、否や、三転しては、一女流作家の身の上について、さらに逆転、お互いの身なり風俗、殺したき憎しみもて左右にわかれて、あくる日は又、早朝より、めしを五杯たべて見苦しい。いや、そういう君の上品ぶりの古陋頑迷《ころうがんめい》、それから各々
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