ふと足許を見ると食ひちらされた蟹の残骸が、そこら中いつぱいに散らばつてゐるのがほの白く見えて、その掃溜のやうな汚なさが、そのままあの人の心の姿だと思ひました。翌る日、御ところへ出仕して、昨夜、僧院へお話相手にお伺ひした事を言上いたしましたところが、将軍家に於いては、ただ軽く首肯かれただけで、別にその時の様子などを御下問なさるやうな事もなく、かへつて私のはうから、
「禅師さまには、ふたたび京都へおいでになりたいやうな御様子でございました。」と要らざる出しやばり口をきいたやうな次第でございましたけれども、将軍家はちよつとお考へになつて、それから一言、
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ドコヘ行ツテモ、同ジコトカモ知レマセン。
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 と私の気のせゐかひどく悲しさうな御口調で呟やかれました。やつぱり将軍家は、何もかも御洞察になつて居られるのだ、と私はただ深い溜息をつくばかりでございました。さうして、そのとしも、また翌年の建保六年も、将軍家の御驕奢はつのるばかり、和歌管絃の御宴は以前よりさらに頻繁になつたくらゐで、夜を徹しての御遊宴もめづらしくは無く、またその頃から鶴岳宮の行事やもろ
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