らせもなかった。むりもないことと思い、私はちっとも、うらまなかった。けれども、もし、これは、めっそうもない、不謹慎きわまる、もし、ではあるが、もし、母がそうなったら、どうしよう。ひょっとしたら、私は、知らせてもらえるかも知れない。知らせてもらえなくても、私は、我慢しなければいけない。それは、覚悟している。恨《うら》みには思わない。けれども、――やはり私にも虫のよいところがあって、あるいは、知らせてもらえるのではないかしら、とも思っているのである。そうして故郷へ呼びかえされる。私は、もう、十年ちかく、故郷を見ない。こっそり見に行きたくても、見ることを許されない。むりもないことなのだ。けれども、母のその場合、もし私が故郷へ呼びかえされたら、そのときには、どんなことが起るか。
それを考えてみたい。
電報が来る。私は困る。部屋の中をうろうろ歩きまわる。大いに困る。困って困って唸るかも知れない。お金がないのである。動きがつかないのである。私の訪問客たちは、みんな私よりも貧しく、そうして苦しい生活をしているのだから、こんな場合でも、とても、たのむわけにはいかない。知らせることさえ、私は、苦痛だ
前へ
次へ
全40ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング