ら、もっともっと苦労させてあげよう。つらくても、みんな、だまって見ていよう。あれは、根がそんなに劣った子ではないのだから、そのうち、きっと眼がさめる。そう信じて、そうしてその日を待っている。私は、それを知っているから、死にたく思う苦しい夜々はあっても、夜のつぎには朝が来る、夜のつぎには朝が来る、と懸命に自分に言い聞かせて、どうにか生き伸び、努力している。三年後には、私も、きっと、その記念写真の一隅に立たせてもらえる。私は、からだが悪いから、ひょっとしたら、その写真にいれてもらうまえに、死ぬかも知れない。そのときには、私の家の人たちは、その記念写真の右上に白い花環で囲んだ私の笑顔を写し込む。
 けれども、それは、三年、いやいや、五年十年あとのことになるかも知れない。私は田舎では、相当に評判がわるい男にちがいないのだから、家ではみんな許したくても、なかなかそうはいかない場合もあろう。とつぜん私が、そのわるい評判を背負ったままで、帰郷しなければならぬことが起ったら、どうしよう。私はともかく、それよりも、家の人たちは、どんなにつらい思いであろう。去年の秋、私の姉が死んだけれど、家からはなんの知
前へ 次へ
全40ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング