ぶえ》を射つて、即死した。傷口が、石榴《ざくろ》のやうにわれてゐた。
さちよは、ひとり残つた。父の実家が、さちよの一身と財産の保護を、引き受けた。女学校の寮から出て、また父の実家に舞ひもどつて、とたんに、さちよは豹変してゐた。
十七歳のみが持つ不思議である。
学校からのかへりみち、ふらと停車場に立寄り、上野までの切符を買ひ、水兵服のままで、汽車に乗つた。東京は、さちよを待ちかまへてゐた。さちよを迎へいれるやいなや、せせら笑つてもみくちやにした。投げ捨てられた鼻紙のやうに、さちよは転々して疲れていつた。二年は、生きた。へとへとだつた。討死《うちじに》と覚悟きめて、母のたつた一つの形見の古い古い半襟を恥づかしげもなく掛けて店に出るほど、そんなにも、せつぱつまつて、そこへ須々木乙彦が、あらはれた。
はじめ、ゆらゆら眼ざめたときには、誰か男の腕にしつかり抱きかかへられてゐたやうに、思はれる。その男の腕に力一ぱいしがみついて、わあ、わあ、声をはりあげて泣いたやうな、気がする。男も一緒に、たしかに、歔欷の声をもらしてゐた。「あなただけでも、強く生きるのだぞ。」さう言つた。誰か、はつきりしな
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