やら、あさましいやら、いぢらしいやら、涙が出て来て困りました。父は、わたくしたち、あまり身を入れて聞いてゐないのに感附いて、いよいよ、むきになつて、こまかく、ほんたうらしく、地図やら何やらたくさん出して、一生懸命にひそひそ説明して、たうとう、これから皆でその山に行かうではないか、とまで言ひ出し、これには、わたくし、当惑してしまひました。まちの誰かれ見さかひなくつかまへて来ては、その金山のこと言つて、わたくしは恥づかしくて死ぬるほどでございました。まちの人たちの笑ひ草にはなるし、朝太郎は、そのころまだ東京の大学にはひつたばかりのところでございましたが、わたくしは、あまり困つて、朝太郎に手紙で事情全部を知らせてやつてしまひました。そのときに、朝太郎は偉かつた。すぐに東京から駈けつけ、大喜びのふりして、お父さん、そんないい山を持つてゐながら、なぜ僕にいままで隠してゐたのです、そんないい事あるんだつたら、僕は、学校なんか、ばかばかしい、どうか学校よさせて下さい、こんな家、売りとばして、これからすぐに、その山の金鉱しらべに行かう、と、もう父の手をひつぱるやうにしてせきたて、また、わたくしを、こつ
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