女に勝ちたい。あの人の肉体を、完全に、欲しい。それだけなんだ。おれは、あの人に、ずいぶんひどく軽蔑されて来ました。憎悪されて来た。けれども、おれには、おれの、念願があるのだ。いまに、おれは、あの人に、おれの子供を生ませてやります。玉のやうな女の子を、生ませてやります。いかがです。復讐なんかぢや、ないんだぜ。そんなけちなことは、考へてゐない。そいつは、おれの愛情だ。それこそ愛の最高の表現です。ああ、そのことを思ふだけでも、胸が裂ける。狂ふやうになつてしまひます。わかるかね。われわれ賎民のいふことが。」ねちねち言つてゐるうちに、唇の色も変り、口角には白い泡がたまつて、兇悪な顔にさへ見えて来た。「こんどの須々木乙彦とのことは、ゆるす。いちどだけは、ゆるす。おれは、いま、ずいぶんばかにされた立場に在る。おれにだつて、それは、わかつてゐます。はらわたが煮えくりかへるやうだつてのは、これは、まさしく実感だね。けれどもおれは、おれを軽蔑する女を、そんな虚傲の女を、たまらなく好きなんだ。蝶々のやうに美しい。因果だね。うんと虚傲になるがいい。どうです、これからも、あの女と、遊んでやつて呉れませんか。それ
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