つて何も知らんのでせう?」
「知つてゐます。」
「おや?」
「おなくなりに、」言ひかけて涙が頬を走つた。
「そのことぢやないんです。」青年は厳粛に口をひきしめ、まつすぐを見つめた。「それも僕には、いや、あなたにだつて、おそろしい打撃なんだが、」煙草を捨てた。「そのことよりも、ほかに、――須々木さんは、ね、たいへんなことをやつたらしいんだ。あなたとのことも、まだ、新聞には、出てゐませんよ。記事差止といふやつらしいのです。あなたのことも、僕のことも、警察ぢや、ずいぶんくはしく調べてゐました。僕は、ひどいめにあつちやつた。それは、きびしく調べられました。あなただつて、あの二日まへにはじめて逢つただけなんださうだし、僕だつて、須々木さんとは親戚で、小さい時から一緒に遊んで、僕は、乙やんを好きだつたし、」ちよつと、とぎれた。突風のやうに嗚咽がこみあげて来たのを、あやふくこらへた。「やつと、僕たち、なんにも知らなかつたのだといふことが判つて、ひとまづ釈放といふところなのです。ひとまづ、ですよ。これから、何か事あるごとに呼び出されるらしいのだから、あなたも、その覚悟をしてゐて下さいね。あなたは、から
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