、それは傲慢《ごうまん》だ、いい気なもんだ、ひとりよがりだ。真実は、行為だ。愛情も、行為だ。表現のない真実なんて、ありゃしない。愛情は胸のうち、言葉以前、というのは、あれも結局、修辞じゃないか。だまっていたんじゃ、わからない、そう突放《つっぱな》されても、それは、仕方のないことなんだ。真理は感ずるものじゃない。真理は、表現するものだ。時間をかけて、努力して、創りあげるものだ。愛情だって同じことだ。自身のしらじらしさや虚無を堪えて、やさしい挨拶送るところに、あやまりない愛情が在る。愛は、最高の奉仕だ。みじんも、自分の満足を思っては、いけない。」また、番茶を、がぶがぶ呑んで、「君は一たい、いままで何をして来た。それを考えてみるがいい。言えないだろう。言えない筈だ。何もしやしない。僕は、君を、もう少し信頼していた。あの山宿を逃げるときだって、僕は、気まぐれから君に手伝いしたのじゃないのだぜ。君に、たしかな目的があって、制止できない渇望があって、そうして、ちゃんと聡明な、具体的な計画があっての、出京だとばかり思っていた。それが、どうだ、八重田数枝のとこに、ころがりこんで、そのまんま、何もしやし
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