ったら、もう、そのよろこびのままで、死にたかった。でも、こんなに、まるまるとふとって生きかえって来て、醜態ね。生きかえって、こんなに一日一日おなじ暮しをして、それでいいのかしらと、たまらなく心細いことがあるわ。大声で叫び出したく思うことがあるの。どうせいちど死んだ身なんだし、何でもいい、人のお役に立てるものなら立ってあげたい。どんな、つらいことでも、どんな、くるしいことでも、こらえる。」そっと頭をもたげて、「ねえ、数枝。聞いているの? 歴史的さんね、あのひと、あたし、そんなに悪いひとじゃないと思うわ。あのひと、あたしを女優にするんだと、ずいぶん意気込んでいるんだけれど、どんなものだろうねえ、数枝だって、あたしがいつまでも、ここで何もせずに居候《いそうろう》していたら、やっぱり、気持が重いでしょう? また、あたしが女優になって、歴史的さんがそれで張り合いのあるお仕事できるようなら、あたし、女優になっても、いいと思うの。あたしがその気になりさえすれば、あとは、手筈《てはず》が、ちゃんときまっているんだって、そう言っていたわ。」
「おまえの好きなようにするさ。名女優になれるだろうよ。」数枝は
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