ろ。おれは、もう何も言わぬ。うちの奴らには、おれから、いいように言って置く。おまえも、もう、来年は、はたちだ。ここでゆっくり湯治《とうじ》しながら、よくよく将来のことを考えてみるがいい。おまえは、おまえの祖先のことを思ってみたことがあるか。おれの家とは、較べものにならぬほど立派な家柄である。おまえがもし軽はずみなことでもして呉れたなら、高野の家は、それっきり断絶だ。高野の血を受け継いで生きているのは、いいか、おまえひとりだ。家系は、これは、大事にしなければいけないものだ。いまにおまえにも、いろいろあきらめが出て来て、もっと謙遜《けんそん》になったとき、家系というものが、どんなに生きることへの張りあいになるか、きっとわかる。高野の家を興《おこ》そうじゃないか。自重しよう。これは、おれからのお願いだ。また、おまえの貴い義務でもないのか。多くは無いが、おまえが一家を創生するだけの、それくらいの財産は、おれのうちで、ちゃんと保管してあります。東京での二年間のことは、これからのおまえの生涯に、かえって薬になるかも知れぬ。過ぎ去ったことは、忘れろ。そういっても、無理かも知れぬが、しかし人間は、何か
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