見えて来た。「こんどの須々木乙彦とのことは、ゆるす。いちどだけは、ゆるす。おれは、いま、ずいぶんばかにされた立場に在る。おれにだって、それは、わかっています。はらわたが煮えくりかえるようだってのは、これは、まさしく実感だね。けれどもおれは、おれを軽蔑する女を、そんな虚傲《きょごう》の女を、たまらなく好きなんだ。蝶々のように美しい。因果だね。うんと虚傲になるがいい。どうです、これからも、あの女と、遊んでやって呉れませんか。それは、おれから、たのむのだ。卑屈からじゃない。おれは、もともと高尚な人間を、好きなんだ。讃美する。君は、とてもいい。素晴らしい。皮肉でも、いやみでも、なんでもない。君みたいないい人と、おとなしく遊んで居れば、だいじょうぶ、あいつは、もっと、か弱く、美しくなる。そいつは、たしかだ。」たらとよだれが、テエブルのうえに落ちて、助七あわててそれを掌で拭き消し、「あいつを、美しくして下さい。おれの、とても手のとどかないような素晴らしい女にして下さい。ね、たのむ。あいつには、あなたが、絶対に必要なんだ。おれの直感にくるいはない。畜生め。おれにだって、誇があらあ。おれは、地べたに落
前へ 次へ
全80ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング