を、まあ、何だい。ニヤニヤしながら、そこを何とか御都合していただくんですなあ、だなんて、とんでもない。首をくくらせる気か。おい、見っともないぞ。そのニヤニヤ笑いは、やめろ! あっちへ行け! みっともない。私は社会党の右派でも左派でもなければ、共産党員でもない。芸術家というものだ。覚えて置き給え。不潔なごまかしが、何よりもきらいなんだ。どだい、あなたは、なめていやがる。そんな当りさわりの無い、いい加減な事を言って、所謂民衆をなだめ、納得させる事が出来ると思っているのか。たった一言でいい、君の立場の実情を言え! 君の立場の実情を。……」
そのような、頗《すこぶ》る泥臭い面罵《めんば》の言葉が、とめどなく、いくらでも、つぎつぎと胸に浮び、われながらあまり上品では無いと思いながら、憤怒の念がつのるばかりで、いよいよひとりで興奮し、おしまいには、とうとう涙が出て来た。
所詮《しょせん》は、陰弁慶である。私は経済学には、まるで暗い。税の問題など、何もわからぬと言ってよい。その街頭録音の場に居合せて、おそるおそる質問を発し、たちまち役人に教えさとされ、
「さよか、すんません」
という情無い結果
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