。少し感傷的な、あまい事なども書かれてありますから。まあ、御推察を願います。」
「それは、よかった。まとめてやったら、どうですか。」
「僕ひとりでは駄目です。あなたにも御助力ねがいたい。きょうこれから先方へ、申込みに行こうと思っているのですが、あなたのところに大隅さんの最近の写真がありませんか。先方に見せなければいけません。」
「最近は、大隅君からあまり便りがないのですが、三年ほど前に北京から送って寄こした写真なら、一、二枚あったと思います。」
はるかに紫禁城《しきんじょう》を眺めている横顔の写真。碧雲寺《へきうんじ》を背景にして支那服を着て立っている写真。私はその二枚を山田君に手渡した。
「これはいい。髪の毛も、濃くなったようですね。」山田君は、何よりも先に、その箇所に目をそそいで言った。
「でも、光線の加減で、そんなに濃く写ったのかも知れませんよ。」私には、自信が無かった。
「いや、そんな事はない。このごろ、いい薬が発明されたそうですからね。イタリヤ製の、いい薬があるそうです。北京で彼は、そのイタリヤ製をひそかに用いたのかも知れない。」
うまく、まとまった様子であった。すべて
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