ありそうろううんぬん》、という激励のお言葉を賜り、先生はどんなに私を頭の悪い駄目な男と思っているのか、その短いお便りに依《よ》って更にはっきりわかったような気がして、有難く思うと共に、また深刻に苦笑したものであった。けれども、私は先生からそのように駄目な男と思われて、かえって気が楽なのである。瀬川先生ほどの人物に、見込みのある男と思われては、かえって大いに窮屈でかなわないのではあるまいか。私は、どうせ、駄目な男と思われているのだから、先生に対して少しも気取る必要は無い。かえって私は、勝手気ままに振舞えるのである。その日、私は久しぶりで先生のお宅へお伺いして、大隅君の縁談を報告し、ついては一つ先生に媒妁の労をとっていただきたいという事を頗る無遠慮な口調でお願いした。先生は、そっぽを向いて、暫《しばら》く黙って考えて居られたが、やがて、しぶしぶ首肯《しゅこう》せられた。私は、ほっとした。もう大丈夫。
「ありがとうございます。何せ、お嫁さんのおじいさんは、槍の名人だそうですからね、大隅君だって油断は出来ません。そこのところを先生から大隅君に、よく注意してやったほうがいいと思います。あいつは、
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