鴎
――ひそひそ聞える。なんだか聞える。
太宰治
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)鴎《かもめ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)車輪|疾駆《しっく》の叫喚《きょうかん》。
−−
鴎《かもめ》というのは、あいつは、唖《おし》の鳥なんだってね、と言うと、たいていの人は、おや、そうですか、そうかも知れませんね、と平気で首肯するので、かえってこっちが狼狽《ろうばい》して、いやまあ、なんだか、そんな気がするじゃないか、と自身の出鱈目《でたらめ》を白状しなければならなくなる。唖は、悲しいものである。私は、ときどき自身に、唖の鴎を感じることがある。
いいとしをして、それでも淋《さび》しさに、昼ごろ、ふらと外へ出て、さて何のあても無し、路《みち》の石塊を一つ蹴ってころころ転がし、また歩いていって、そいつをそっと蹴ってころころ転がし、ふと気がつくと、二、三丁ひとつの石塊を蹴っては追って、追いついては、また蹴って転がし、両手を帯のあいだにはさんで、白痴の如く歩いているのだ。私は、やはり病人なのであろうか。私は、間違っているのであろうか。私は、小説と
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