おかげで私の指さきもそれから脚も、もう三秒とたたぬうちに、みるみる冷くなるでございませう。ほんたうは怒つてゐないの。だつてあなたはわるくないし、いいえ、理窟はないんだ。ふつと好きなの。あああ。あなた、仕合せは外から? さやうなら、坊ちやん。もつと惡人におなり。

 男は書きかけの原稿用紙に眼を落してしばらく考へてから、題を猿面冠者とした。それはどうにもならないほどしつくり似合つた墓標である、と思つたからであつた。



底本:「太宰治全集2 小説1」筑摩書房
   1998(平成10)年5月25日初版第1刷発行
初出:「鷭 第二輯」
   1934(昭和9)年7月
入力:赤木孝之
校正:湯地光弘
1999年6月15日公開
2009年3月2日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全4ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング