aid,“[#ここで横組み終わり]――葛西善藏は、そのころまだ生きてゐた。いまのやうに有名ではなかつた。一週間すぎて、ふたたびブルウル氏の時間が來た。お互ひにまだ友人になりきれずにゐる新入生たちは、教室のおのおのの机に坐つてブルウル氏を待ちつつ、敵意に燃える瞳を煙草のけむりのかげからひそかに投げつけ合つた。寒さうに細い眉をすぼませて教室へはひつて來たブルウル氏は、やがてほろにがく微笑みつつ、不思議なアクセントでひとつの日本の姓名を呟いた。彼の名であつた。彼はたいぎさうにのろのろと立ちあがつた。頬がまつかだつた。ブルウル氏は、彼の顏を見ずに言つた。 Most Excellent! 教壇をあちこち歩きまはりながらうつむいて言ひつづけた。Is this essay absolutely original? 彼は眉をあげて答へた。Of course. クラスの生徒たちは、どつと奇怪な喚聲をあげた。ブルウル氏は蒼白の廣い額をさつとあからめて彼のはうを見た。すぐ眼をふせて、鼻眼鏡を右手で輕くおさへ、If it is, then it shows great promise and not only
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