ている此の道が、六尺ほどの幅で、坦々とつづいている。
 道のつきるところまで歩こう。言うすべもない混乱と疲労から、なにものも恐れぬ勇気を得ていたのである。
 ものの半里も歩いたろうか。私は、再びもとの出発点に立っていた。私は道が岩山をぐるっとめぐってついてあるのを了解した。おそらく、私はおなじ道を二度ほどめぐったにちがいない。私は島が思いのほかに小さいのを知った。
 霧は次第にうすらぎ、山のいただきが私のすぐ額のうえにのしかかって見えだした。峯《みね》が三つ。まんなかの円い峯は、高さが三四丈もあるであろうか。様様の色をしたひらたい岩で畳まれ、その片側の傾斜がゆるく流れて隣の小さくとがった峯へ伸び、もう一方の側の傾斜は、けわしい断崖をなしてその峯の中腹あたりにまで滑り落ち、それからまたふくらみがむくむく起って、ひろい丘になっている。断崖と丘の硲《はざま》から、細い滝がひとすじ流れ出ていた。滝の附近の岩は勿論《もちろん》、島全体が濃い霧のために黝《あおぐろ》く濡れているのである。木が二本見える。滝口に、一本。樫《かし》に似たのが。丘の上にも、一本。えたいの知れぬふとい木が。そうして、いずれ
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