ような気がする。高揚と卑屈の、あの美しい混乱である。他の本《ほん》で読んだのだが、パウロは、当時のキリスト党から、ひどい個人攻撃を受けたそうである。
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一、彼の風采上らず、その言語野卑なり。例えば、(その書《ふみ》は重く、かつ強し。その逢うときの容貌《かたち》は弱く、言《ことば》は鄙《いや》し。)と言われ、パウロは無念そうに、(我は何事にも、かの大使徒たちに劣らずと思う。われ言葉に拙《つたな》けれども知識には然らず、凡ての事にて全く之を汝らに顕《あらわ》せり。われ汝らを高うせんために自己《みずから》を卑《ひく》うし、価なくして神の福音を伝えたるは罪なりや。)と反問している。
二、横暴なり。破壊的なり。
三、自家広告が上手で、自分のことばかり言っている。
四、臆病なり。弱い男なり。意気揚らず。
五、不誠実。悪巧《わるだくみ》をする。狡猾であり、詭計を以て掠め取るということ。
六、彼の病気。癲癇ではないか。(肉体に一つの刺《とげ》を与えらる云々。)
七、彼が約束を守らぬということ。
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 その他、到れり尽せりの人身攻撃を受けたようである。(塚本虎
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