った。
「手紙、かえして!」マア坊は、小声で、けれども鋭く囁《ささや》いた。
「枕元《まくらもと》の引出しにある。」僕は仰向に寝たまま顔をしかめて言った。あきらかに僕は不機嫌《ふきげん》だった。
「いいわ、お昼食がすんだら、洗面所へちょっといらっしゃらない? その時かえして。」
 そう言い棄《す》て僕の返辞も待たず、さっさと引き上げて行った。
 不思議なくらいよそよそしかった。こっちがちょっと親切にしてあげると、すぐにあんなに、つんけんする。よろしい、それならば、僕にも考えがある。思い切り、こっぴどく、やっつけてやろう、と僕は覚悟して、お昼の休憩時間を待った。
 お昼ごはんは、竹さんが持って来た。お膳《ぜん》の隅《すみ》に竹細工の小さい人形が置かれてある。顔を挙げて竹さんに、これは? と眼で尋ねたら、竹さんは、顔をしかめて烈《はげ》しくイヤイヤをして、誰《だれ》にも言うな、というような身振りをした。僕は浮かぬ顔をして、うなずいた。全く、不可解であった。

     2

「けさ、道場の急用で、まちへ行って来たのや。」と竹さんは普通の音声で言った。
「お土産か。」と僕は、なぜだか、がっか
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