りしたような気持で、元気の無い尋ね方をした。
「可愛《かわい》いやろ? 藤娘《ふじむすめ》や。しまっとき。」と姉のような、おとなびた口調で言って立ち去った。
 僕は、ぽかんとした気持だった。少しもうれしくない。人の好意には素直に感奮すべきだと前の日に思いをあらたにした矢先ではあったが、どういうものか、僕には竹さんのこんな好意は有り難くない。それは僕が、この道場に来た当初から変らずに持ちつづけていた感情で、いまさらどうにも動かしがたいのだ。竹さんは、助手の組長で、そうして道場の皆に信頼されている立派な人なのだから、もっと、しっかりしなければならぬ。マア坊なんかとは、わけが違うのだ。こんな、つまらぬ人形なんかを買って来て、藤娘や、可愛いやろ? もないもんだ。
 僕は、ごはんを食べながら、つくづくとお膳の隅の、その藤娘と称する二寸ばかりの高さの竹細工の人形を眺《なが》めたが、見れば見るほど、まずい人形だった。どうも趣味がわるい。これは駅の売店で埃《ほこり》をかぶって店《たな》ざらしになっていたしろものに違いない。気のいい人は、必ず買い物が下手なものだが、竹さんも、どうやら、ごたぶんにもれぬほ
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