る手紙の全文である。
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「過ぎし想《おも》い出の地、道場の森、私は窓辺によりかかり、静かに人生の新しい一|頁《ページ》とも云《い》うべき事柄《ことがら》を頭に描きつつ、寄せては返す波を眺《なが》めている。静かに寄せ来る波……然《しか》し、沖には白波がいたく吠《ほ》えている。然して汐風《しおかぜ》が吹き荒れているが為《ため》に。」というのが書き出しだ。なんの意味も無いじゃないか。これではマア坊も当惑する筈《はず》だ。万葉集以上に難解な文章だ。つくしは、この道場を出て、それからつくしの故郷の北海道のほうの病院に行ったのだが、その病院は、どうやら海辺に建っているらしい。それだけはわかるのだが、あとは何の意味やら、さっぱりわからない。珍らしい文章である。もう少し書き写してみましょう。文脈がいよいよ不可思議に右往左往するのである。
「夕月が波にしずむとき、黒闇《こくあん》がよもを襲うとき、空のあなたに我が霊魂を導く星の光あり、世はうつり、ころべど、人生を正しく生きんがために努力しよう! 男だ! 男だ! 男だ※[#感嘆符二つ、1−8−75] 頑張《がんば》って行こう。私は今ここに貴
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