僕には思われた。月並とでもいうのか、ありふれたような句であるが、これでも、自分で作るとなると、なかなか骨の折れるものなのではあるまいか。
乱れ咲く乙女心の野菊かな、なんてのは少しへんだが、それでも、けしからぬと怒るほどの下手さではないと思った。けれども、最後の一句に突き当って、はっとした。越後獅子が憤慨したわけも、よくわかった。
露の世は露の世ながらさりながら
誰やらの句だ。これは、いけないと思った。けれども、それをあからさまに言って、かっぽれに赤恥をかかせるような事もしたくなかった。
「どれもみな、うまいと思いますけど、この、最後の一句は他《ほか》のと取りかえたら、もっとよくなるんじゃないかな。素人《しろうと》考えですけど。」
「そうですかね。」かっぽれは不服らしく、口をとがらせた。「その句が一ばんいいと私は思っているんですがね。」
そりゃ、いい筈《はず》だ。俳句の門外漢の僕でさえ知っているほど有名な句なんだもの。
「いい事は、いいに違いないでしょうけど。」
僕は、ちょっと途方に暮れた。
「わかりますかね。」かっぽれは図に乗って来た。「いまの日本国に対する私のまごころも、
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