さみ、ベッドの上に正坐《せいざ》して首をひねり、真剣に句を案じていたが、けさ、やっとまとまったそうで、十句ばかり便箋《びんせん》に書きつらねたのを、同室の僕たちに披露《ひろう》した。まず、固パンに見せたけれども、固パンは苦笑して、
「僕には、わかりません。」と言って、すぐにその紙片を返却した。次に、越後獅子に見せて御批評を乞《こ》うた。越後獅子は背中を丸めて、その紙片をねらうようにつくづくと見つめ、
「けしからぬ。」と言った。
 下手だとか何とか言うなら、まだしも、けしからぬという批評はひどいと思った。

     2

 かっぽれは、蒼《あお》ざめて、
「だめでしょうか。」とお伺いした。
「そちらの先生に聞きなさい。」と言って越後は、ぐいと僕の方を顎《あご》でしゃくった。
 かっぽれは、僕のところに便箋を持って来た。僕は不風流だから、俳句の妙味などてんでわからない。やっぱり固パンのように、すぐに返却しておゆるしを乞うべきところでもあったのだが、どうも、かっぽれが気の毒で、何とかなぐさめてやりたく、わかりもしない癖に、とにかくその十ばかりの句を拝読した。そんなにまずいものではないように
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