な騒ぎ方だ。かっぽれも一枚もらった。僕は、女からものをもらうのは、いやだから、はじめからお土産の強迫などもしなかったし、また、みんなと同じおもちゃの懐中鏡一枚の恩恵に浴したところで、つまらない事だと思っていたし、マア坊が僕たちの部屋へやって来て、かっぽれに鏡を手渡し、
「かっぽれさんは、この女優を知ってる?」
「知らねえが、べっぴんだ。マア坊にそっくりじゃないか。」
「あら、いやだ。ダニエル・ダリュウじゃないの。」
「なんだ、アメリカか。」
「ちがうわよ、フランスのひとよ。ひところ東京では、ずいぶん人気があったのよ。知らないの?」
「知らねえ。フランスでも何でも、とにかくこれは返すよ。毛唐《けとう》はつまらねえ。日本の女優の写真とかえてくれねえか。あい願わくば、そうしてもらいたい。こいつは、向うの小柴《こしば》のひばりさんにでもあげるんだね。」
「ぜいたく言ってる。特別に、あなただけに差上げるのよ。ひばりには、いや。意地わるだから、いや。」
「どうだかね。ではまあ、いただいて置きましょう。ダニエ?」
「ダニエルよ。ダニエル・ダリュウ。」
 そんな二人の会話を聞いて、僕はにこりともせず屈
前へ 次へ
全183ページ中58ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング