ろうし、どうせそうだろうし、まあ、仕方が無い。けれども僕にとっては、マア坊は、あながち石ころでは無いのだから、僕はマア坊の摩擦の時には息ぐるしく、妙に固くなって、うまく冗談が言えない。冗談を言うどころか、声が喉《のど》にひっからまって、ろくにものが言えなくなるのだ。結局、僕は、不機嫌《ふきげん》みたいに、むっつりしてしまうのだが、そうするとまた、マア坊のほうでも気づまりになるのであろう、僕の摩擦の時だけは、ちっとも笑わず、そうして無口だ。けさの摩擦も、そんな具合の窮屈な、やりきれないものであった。殊《こと》にも、あの、「つくしにね、鈴虫が鳴いてるって言ってやって」以来、僕の気持は急速にはりつめて来ているような按配《あんばい》なのだし、それにまた、君への手紙に、マア坊を好きだ好きだと書いてやった直後でもあるし、どうにも、かなわない、ぎこちない気分であった。マア坊は、僕の背中をこすりながら、ふいと小声で言った。
「ひばりが、一ばんいいな。」
 うれしく無かった。何を言っていやがると思った。とってつけたようなそんなお世辞を言えるのは、マア坊が僕を、いい加減に思っている証拠だ。本当に、一ばんい
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