さんには、どうも不可解なところが多く、僕は前から、このひとに最も気をつけて来ているのだ。綽名《あだな》はマア坊。
 ついでに、きょうは他《ほか》の助手さんたちの綽名も紹介しましょう。こないだの手紙に、ここの助手さんたちは、油断のならぬところがあって、男のひとたちに片端から辛辣《しんらつ》の綽名を呈上していると言ったが、しかし、また塾生のほうだって負けずに、助手さんたち全部を綽名で呼んでいるのだから、まあ、アイコみたいなものだ。けれども、塾生たちの案出した綽名は、そこは何といっても、やっぱり女性に対するいたわりもあるらしく、いくぶんお手やわらかに出来ている。三浦正子だから、マア坊。なんという事もない。竹中静子だから、竹さん、なんてのはもっとも気がきかない。平凡きわまる。また、眼鏡をかけている助手さんは、出目金《でめきん》とでもいうようなところなのに、遠慮して、キントト。痩《や》せているから、うるめ。淋《さび》しそうな顔をしているから、ハイチャイ。このへんは、まあ、いいほうかも知れないが、どうも少し遠慮している。ひどく、ぶ器量なくせに、パーマネントも物凄《ものすご》く、眼蓋《まぶた》を赤く
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