助手、僕たち入院患者は塾生《じゅくせい》と呼ばれる事になっている。すべてここの田島場長の創案らしい。田島先生がこの療養所へ招聘されて来てからは、内部の機構が一新せられ、患者に対しても独得の療法を施し、非常な好成績で、医学界の注目の的となっているのだそうだ。頭がすっかり禿《は》げているので、五十歳くらいにも見えるが、あれでまだ三十歳代の独身者だとかいう事だ。痩《や》せて長身の、ちょっと前こごみの、そうして、なかなか笑わない人だ。頭の禿げている人は、たいてい端正な顔をしているものだが、田島先生も、卵に目鼻というような典雅な容貌《ようぼう》の持主である。そうして、これも頭の禿げた人に特有の、れいの猫《ねこ》みたいな陰性の気むずかしさを持っている人のようである。ちょっと、こわい。毎日、午前十時にこの場長は、指導員、助手を引き連れて場内を巡回するのだが、その時には、道場全体が、しんとなる。塾生たちも、この場長の前では、おそろしく神妙にしている。けれども、陰ではこっそり綽名で呼んでいる。清盛《きよもり》というのだ。
さて、それでは当道場の日課について、も少しくわしく説明しましょうか。屈伸鍛錬とい
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