脱がせて、「ひばりには、とてもよく似合うわよ。マア坊は果報やなあ。帰りに一緒にオバさんとこでお茶を飲んだってな。」
やはり、夢ではなかった。
「竹さん、おめでとう。」と僕が言った。
竹さんは返辞をしなかった。黙って、うしろから寝巻をかけてくれて、それから、寝巻の袖口《そでぐち》から手を入れて、僕の腕の附《つ》け根のところを、ぎゅっとかなり強く抓《つね》った。僕は歯を食いしばって痛さを堪《こら》えた。
6
何事も無かったように寝巻に着換えて、僕は食事に取りかかり、竹さんは傍《そば》で僕の絣の着物を畳んでいる。お互いに一ことも、ものを言わなかった。しばらくして竹さんが、極めて小さい声で、
「かんにんね。」と囁《ささや》いた。
その一言に、竹さんの、いっさいの思いがこめられてあるような気がした。
「ひどいやつや。」と僕は、食事をしながら竹さんの言葉の訛《なま》りを真似《まね》てそっと呟《つぶや》いた。
そうしてこの一言にも、僕のいっさいの思いがこもっているような気がした。
竹さんはくすくす笑い出して、
「おおきに。」と言った。
和解が出来たのである。僕は竹さんの幸
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