寝巻に着換えるのもめんどうくさくて、羽織も脱がずにベッドに寝ころがって、そのまま、うとうと眠った。
「ひばり、ごはんや。」
眼を薄くあけて見ると、竹さんがお膳《ぜん》を持って笑って立っている。
ああ、場長夫人!
すぐに、はね起き、
「や、すみません。」と言って、思わず軽く頭を下げた。
「寝ぼけているな。寝ぼすけさん。」とひとりごとのように言って、お膳を枕元《まくらもと》に置き、「着物、着たまま寝ている人があるかいな。いま風邪ひいたら一大事や。早うお寝巻に着換えたらええ。」眉《まゆ》をひそめて不機嫌《ふきげん》そうに言いながら、ベッドの引出しから寝巻を取り出し、「世話の焼けるぼんぼんや。おいで、着換えさしてあげる。」
僕はベッドから降りて兵古帯《へこおび》をほどいた。いつものとおりの竹さんだ。場長と結婚するなんて、嘘《うそ》みたいに思われて来た。なあんだ、僕はいまうとうと眠って夢を見たのだ。お母さんが来たのも夢、マア坊があの三好野みたいな家で泣いたのも夢、と一瞬そんな気がして嬉《うれ》しかったが、しかし、そうではなかった。
「いい久留米絣《くるめがすり》やな。」竹さんは僕に着物を
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