言ったが、かえってその言葉のほうに、うれしい愛情が感ぜられた。
 僕は、ゆっくり歩いた。お母さんとマア坊が、小声で何か囁《ささや》き合いながら、僕の後を追って来た。松林を通り抜けて、アスファルトの県道へ出たら、僕は軽い眩暈《めまい》を感じて、立ちどまった。
「大きいね。道が大きい。」アスファルト道が、やわらかい秋の日ざしを受けて鈍く光っているだけなのだが、僕には、それが一瞬、茫洋混沌《ぼうようこんとん》たる大河のように見えたのだ。
「無理かな?」お母さんは笑いながら、「どうかな? お見送りは、このつぎに、お願いするとしましょうか?」

     2

「平気、平気。」ことさらに駒下駄の音をカタカタと高く響かせて歩いて、「もう馴《な》れた。」と言った途端に、トラックが、凄《すさま》じい勢いで僕を追い抜き、思わず僕は、わぁっ! と叫んだ。
「大きいね。トラックが大きいね。」とお母さんはすぐに僕の口真似をしてからかった。
「大きくはないけど、強いんだ。すごい馬力だ。たしかに十万馬力くらいだった。」
「さては、いまのは原子トラックかな?」お母さんも、けさは、はしゃいでいる。
 ゆっくり歩いて、
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