もあろう、マア坊は平気で奥の方へ行き、番茶の土瓶《どびん》とお茶碗《ちゃわん》を持って来た。僕たちは鏡の下のテーブルに向い合って席をとり、二人で生ぬるい番茶を飲んだ。ほっと深い溜息《ためいき》をついて、少し気持も楽になり、
「竹さんが結婚するんだって?」と軽い口調で言う事が出来た。
「そうよ。」マア坊もこのごろ、なぜだか淋《さび》しそうだ。寒そうに肩を小さくすぼめて、僕の顔をまっすぐに見ながら、「ご存じじゃ、なかったの?」
「知らなかった。」不意に眼が熱くなって、困って、うつむいてしまった。
「わかるわ。竹さんだって泣いてたわ。」
「何を言っていやがる。」マア坊の、しんみりした口調が、いやらしくて、いやらしくて、むかむか腹が立って来た。「いい加減な事を言っちゃ、いけない。」
「いい加減じゃないわ。」マア坊も涙ぐんでいる。「だから、あたしが言ったじゃないの。竹さんと仲よくしちゃいけないって。」
「仲よくなんか、しやしないよ。そんなに何でも心得ているような事を言うな。いやらしくって仕様がない。竹さんが結婚するのは、いい事だ。めでたいじゃないか。」
「だめよ。あたしは、知っているんですから。ごまかしたって、だめよ。」大きい眼から涙があふれて、まつげに溜《たま》って、それからぽろぽろ頬《ほお》を伝って流れはじめた。「知ってるのよ。知ってるのよ。」
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「よせよ。意味が無いじゃないか。」こんなところを、ひとに見られたら困ると思った。「なんの意味もありゃしないじゃないか。」繰返して言ったその僕の言葉も、あまり意味のあるもののようには思えなかった。
「ひばりは、全く、のんきな人ねえ。」と指先で頬の涙を拭きながら、マア坊は少し笑って言った。「いままで、場長さんと竹さんとの事をご存じじゃなかったなんて。」
「そんな下品な事は知らん。」急に、ひどく不愉快になって来た。みんなをぽかぽか殴ってやりたくなって来た。
「何が、下品なの? 結婚って、下品なものなの?」
「いや、そんな事はないが、」僕は口ごもって、「前から、何か、――」
「あらいやだ。そんな事は無いのよ。場長さんは、まじめなお方だわ。竹さんには何も言わないで、竹さんのお父さんのところにお願いにあがったのよ。竹さんのお父さんはいまこっちへ疎開《そかい》して来ているんだって。そうして竹さんのお父さんから、こないだ竹さんに
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