後の顔色をうかがった。
「直しておやり。」越後も食事がすんだらしく爪楊枝《つまようじ》を使いながら、にやにや笑って言った。どうも、けさは機嫌《きげん》がよすぎて、かえって気味が悪い。
娘さんは顔を赤くして、ためらいながらも枕元に寄って来て、菊の花をみんな花瓶《かびん》から抜いて、挿し直しに取りかかった。いいひとに直してもらえて、僕はとても嬉《うれ》しかった。
越後はベッドの上に大きくあぐらを掻《か》いて、娘さんの活花《いけばな》の手際《てぎわ》をいかにも、たのしそうに眺めながら、
「もういちど、詩を書くかな。」と呟いた。
下手な事を言って、また、呶鳴《どな》られるといけないから、僕は黙っていた。
「ひばりさん、きのうは失敬。」と言って、ずるそうに首をすくめた。
「いいえ、僕こそ、生意気な事を言って。」
実に、思いがけず、あっさりと和解が出来た。
「また、詩を書くかな。」ともう一度、同じ事を繰り返して言った。
「書いて下さい。本当に、どうか、僕たちのためにも書いて下さい。先生の詩のように軽くて清潔な詩を、いま、僕たちが一ばん読みたいんです。僕にはよくわかりませんけど、たとえば、モオツァルトの音楽みたいに、軽快で、そうして気高く澄んでいる芸術を僕たちは、いま、求めているんです。へんに大袈裟《おおげさ》な身振りのものや、深刻めかしたものは、もう古くて、わかり切っているのです。焼跡の隅《すみ》のわずかな青草でも美しく歌ってくれる詩人がいないものでしょうか。現実から逃げようとしているのではありません。苦しさは、もうわかり切っているのです。僕たちはもう、なんでも平気でやるつもりです。逃げやしません。命をおあずけ申しているのです。身軽なものです。そんな僕たちの気持にぴったり逢うような、素早く走る清流のタッチを持った芸術だけが、いま、ほんもののような気がするのです。いのちも要らず、名も要らずというやつです。そうでなければ、この難局を乗り切る事が絶対に出来ないと思います。空飛ぶ鳥を見よ、です。主義なんて問題じゃないんです。そんなものでごまかそうたって、駄目です。タッチだけで、そのひとの純粋度がわかります。問題は、タッチです。音律です。それが気高く澄んでいないのは、みんな、にせものなんです。」
僕は、不得手な理窟《りくつ》を努力して言ってみた。言ってから、てれくさく思った。言
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