つら眠っていました。伯父への御恩返しも、こんな私の我儘《わがまま》のために、かえってマイナスになったようでしたが、もはや、私には精魂こめて働く気などは少しもなく、その翌る日には、ひどく朝寝坊をして、そうしてぼんやり私の受持の窓口に坐り、あくびばかりして、たいていの仕事は、隣りの女の局員にまかせきりにしていました。そうしてその翌日も、翌々日も、私は甚だ気力の無いのろのろしていて不機嫌な、つまり普通の、あの窓口局員になりました。
「まだお前は、どこか、からだ工合がわるいのか」
 と伯父の局長に聞かれても薄笑いして、
「どこも悪くない。神経衰弱かも知れん」
 と答えます。
「そうだ、そうだ」と伯父は得意そうに、「俺もそうにらんでいた。お前は頭が悪いくせに、むずかしい本を読むからそうなる。俺やお前のように、頭の悪い男は、むずかしい事を考えないようにするのがいいのだ」と言って笑い、私も苦笑しました。
 この伯父は専門学校を出た筈《はず》の男ですが、さっぱりどこにもインテリらしい面影が無いんです。
 そうしてそれから、(私の文章には、ずいぶん、そうしてそれから[#「そうしてそれから」に傍点]が多い
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