ダス・ゲマイネ
太宰治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)堪《こた》える

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)孤高|狷介《けんかい》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから5字下げ、本文よりひとまわり大きい太ゴシック体]
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   一 幻燈

[#ここから5字下げ、本文よりひとまわり大きい太ゴシック体]
当時、私には一日一日が晩年であった。
[#ここで字下げ終わり]

 恋をしたのだ。そんなことは、全くはじめてであった。それより以前には、私の左の横顔だけを見せつけ、私のおとこを売ろうとあせり、相手が一分間でもためらったが最後、たちまち私はきりきり舞いをはじめて、疾風のごとく逃げ失せる。けれども私は、そのころすべてにだらしなくなっていて、ほとんど私の身にくっついてしまったかのようにも思われていたその賢明な、怪我の少い身構えの法をさえ持ち堪《こた》えることができず、謂《い》わば手放しで、節度のない恋をした。好きなのだから仕様がないという嗄《しわが》れた呟《つぶや》きが、私の思想の全部であった。二十五歳。
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