画をかいて、高い価で売って、遊ぶ。それで結構なんです」
言い終えたところは山猫の檻のまえであった。山猫は青い眼を光らせ、脊《せ》を丸くして私たちをじっと見つめていた。佐竹はしずかに腕を伸ばして吸いかけの煙草の火を山猫の鼻にぴたっとおしつけた。そうして佐竹の姿は巖のように自然であった。
三 登竜門
[#ここから5字下げ、本文よりひとまわり大きい太ゴシック体]
ここを過ぎて、一つ二銭の栄螺《さざえ》かな。
[#ここで字下げ終わり]
「なんだか、――とんでもない雑誌だそうですね」
「いいえ。ふつうのパンフレットです」
「すぐそんなことを言うからな。君のことは実にしばしば話に聞いて、よく知っています。ジッドとヴァレリイとをやりこめる雑誌なんだそうですね」
「あなたは、笑いに来たのですか」
私がちょっと階下へ行っているまに、もう馬場と太宰が言い合いをはじめた様子で、お茶道具をしたから持って来て部屋へはいったら、馬場は部屋の隅の机に頬杖《ほおづえ》ついて居汚く坐り、また太宰という男は馬場と対角線をなして向きあったもう一方の隅の壁に背をもたせ細長い両の毛臑《けずね》を前へ投げだして坐
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