きることに不熱心である。けれども僕は自殺をしない。誰かに自惚れられるのが、いやなんだ。病気と災難とを待っている。けれどもいまのところ、僕の病気は歯痛と痔《じ》である。死にそうもない。災難もなかなか来ない。僕の部屋の窓を夜どおし明けはなして盗賊の来襲を待ち、ひとつ彼に殺させてやろうと思っているのであるが、窓からこっそり忍びこむ者は、蛾《が》と羽蟻《はあり》とかぶとむし、それから百万の蚊軍。(君|曰《いわ》く、ああ僕とそっくりだ!)君、一緒に本を出さないか。僕は、本でも出して借金を全部かえしてしまって、それから三日三晩くらいぶっつづけにこんこんと眠りたいのだ。借金とは宙ぶらりんな僕の肉体だ。僕の胸には借金の穴が黒くぽかんとあいている。本を出したおかげでこの満たされぬ空洞がいよいよ深くなるかも知れないが、そのときにはまたそれでよし。とにかく僕は、僕自身にうまくひっこみをつけたいのだ。本の名は、海賊。具体的なことがらについては、君と相談のうえできめるつもりであるが、僕のプランとしては、輸出むきの雑誌にしたい。相手はフランスがよかろう。君はたしかにずば抜けて語学ができる様子だから、僕たちの書いた
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